成果をあげることは使命

本書は二つの前提に立っていた。
(1)エグゼクティブの仕事は成果をあげることである
(2)成果をあげる能力は修得できる

This book rests on two premises;

  • The executive’s job is to be effective; and
  • Effectiveness can be learned.
  • rest on : ~に基づく、依拠する、当てにする
  • premise : 前提

本書は教科書ではない。その理由の一つは、成果をあげることは学ぶことはできるが教わることはできないからである。
つまるところ成果をあげることは教科ではなく修練である。

This is not a textbook, of course - if only because effectiveness, while capable of being learned, surely cannot be taught.
Effectiveness is , after all, not a “subject,” but a self-discipline.

  • be capable of doing : ~する能力がある
  • subject : 主題、テーマ、話題、題材、教科、科目、学科
  • self-discipline : 自己鍛錬、自己統制、自己修練、自己訓練

成果をあげることは、個人の自己開発のために、組織の発展のために、そして現代社会の維持発展のために死活的に重要な意味を持つということである。

Effectiveness reveals itself as crucial to a man’s self-development; to organization development; and to the fulfillment and viability of modern society.

  • reveal : 明らかにする、暴露する、示す、あらわにする
  • crucial : 極めて重大な、決定的な
  • viability : 生育能力、実行可能性

組織は、優秀な人たちがいるから成果をあげるのではない。
組織の水準や習慣や気風によって自己開発を動機づけるから、優秀な人たちをもつことになる。
そして、そのような組織の水準や文化や気風は、一人ひとりの人が自ら成果をあげるエグゼクティブとなるべく、目的意識をもって体系的に、かつ焦点を絞って自己修練に努めるからこそ生まれる。

Organizations are not more effective because they have better people.
They have better people because they motivate to self-development through their standards, through their habits, through their climate.
And these, in turn, result from systematic, focused, purposeful, self-training of the individuals in becoming effective executives.

  • climate : 気候、風潮、雰囲気
  • in turn : 順番に、次々と、今度は、交代で

いよいよ終章です。これまで、成果をあげる能力として、①時間を管理する②貢献に焦点を合わせる③自らの強みを生かす④最も重要なことに集中する⑤成果をあげる意思決定を行う、という順に学んできました。

第1章の5「成果をあげる能力は修得できるか」で述べられたことの繰り返しですが、この能力を身につけるためには、繰り返し実践し習慣として身につける、つまり「修練」が必要だとしています。

実は、ここでドラッカーは厳しいことを言っています。

「成果をあげるエグゼクティブになること自体は賞賛されるべきことではない。ほかの多くの人のように、自らの職務を果たすようになるだけのことにすぎない。(There is nothing exalted about being an effective executive. It is simply doing one’s job like thousands of others. )」

つまりは、現代の組織社会においては、一人ひとりが当たり前に身につけているべき最低限の能力だと言うのです。まだそこまでの習慣をもっていない身にとっては、実に耳の痛い指摘です。

ですが同時に、「成果をあげるエグゼクティブの自己開発とは真の人格の形成でもある(The self-development of an effective executive is true development of the person.)」とも述べています。

組織で働く人間としてあるべき姿を理解し、ドラッカーの言うことに同意できるのであれば、この能力を修得できるように実践・修練していくことが良いのではないでしょうか。

2013/6/13
update:2015/12/31

現代社会に不可欠なもの

知識労働者は先進国において急速に主たる資源となりつつある。
しかも知識労働者は主たる投資ともなっている。なぜなら教育こそ、今日あらゆる投資のうち最も高価だからである。
そして彼ら知識労働者は、あらゆるところでますます大きなコストセンターになりつつある。

The knowledge worker is rapidly becoming the major resource of the developed countries.
He is becoming the major investment; for education is the most expensive investment of them all.
He is becoming the major cost center.


知識労働者の生産性の向上は、先進工業社会に特有の経済的ニーズである。
知識労働者の生産性のみが、低賃金の発展途上国との競争下で先進工業社会における高度の生活水準を可能とする。

To make the knowledge worker productive is the specific economic need of an industrially developed society.
Only productivity of the knowledge worker can make it possible for developed countries to maintain their high standard of living against the competition of low-wage, developing economies.

  • maintain : 保つ、続ける、維持する
  • competition : 競争、ライバル、コンペ
  • low-wage : 低賃金

われわれは、組織の成果に対する社会の客観的なニーズと、個人の自己実現のニーズの双方を満たさなければならない。

We will have to satisfy both the objective needs of society for performance by the organization, and the needs of the person for achievement and fulfillment.

  • objective : 客観的な、実在の、本当の
  • achievement : 業績、成果、成就、達成、習得
  • fulfillment : 満足感、充実感、実現、達成、遂行

ここにおいて成果に向けたエグゼクティブの自己開発こそが、手にしうる唯一の答えである。
それは組織の目標と個人の欲求を合致させる唯一の方法である。
強みを生かす者は仕事と自己実現を両立させる。
自らの知識が組織の機会となるように働く。
貢献に焦点を合わせることによって自らの価値を組織の成果に変える。

Self-development of the executive toward effectiveness is the only available answer.
It is the only way in which organization goals and individual needs can come together.
The executive who works at making strength productive - his own as well as those of others - works at making organizational performance compatible with personal achievement.
He works at making his knowledge area become organizational opportunity.
And by focusing on contribution, he makes his own values become organization results.

  • toward : ~に向けて、~の方へ
  • come together : やっとうまくいく、人が集まる
  • compatible with : 両立して、適合して、矛盾しない、ウマがあう

知識労働者(ナレッジワーカー)は、現在の日本社会においては大多数を占めています。私たちもその一人です。

公立であれ私立であれ、私たちは多くの国にはない高等教育を受けて育ってきました。その教育は、日本という先進社会がそれを維持するために必要な投資として行っていると考えるならば、その投資を受けてきた私たち一人ひとりは、社会にその還元をしなくてはならない使命を負っているということもできると思います。

ドラッカーは、先進国が新興国との競争に立ち向かうためには、ナレッジワーカーの生産性が最も重要であると別の書籍で指摘しています。

われわれナレッジワーカーが自らの自己実現をめざし、組織のニーズとマッチさせることができるようになれば、その生産性は急激に向上し、社会に還元していると言えるようになるのではないでしょうか。

本書は、次の文で締めくくられています。

「エグゼクティブの成果をあげる能力によってのみ、現代社会は二つのニーズ、すなわち個人からの貢献を得るという組織のニーズと、自らの目的の達成のために道具として組織を使うという個人のニーズを調和させることができる。したがってまさにエグゼクティブは成果をあげる能力を修得しなければならない。(Only executive effectiveness can enable this society to harmonize its two needs: the needs of organization to obtain from the individual the contribution it needs, and the need of the individual to have organization serve as his tool for the accomplishment of his purposes. Effectiveness must be learned.)」

2013/6/14
update:2015/12/31