正しい意思決定の要件①
意思決定についての文献のほとんどが、まず事実を探せという。
だが、成果をあげるものは事実からはスタートできないことを知っている。
誰もが自分の意見からスタートする。
そもそも何が事実であるかを確定するには、有意性の基準、特に評価の基準についての決定が必要である。
これが成果をあげる決定の要であり、通常最も判断の分かれるところである。
Most books on decision-making tell the reader: “First find the facts."
But executives who make effective decisions know that one does not start with facts.
One starts with opinions.
To determine what is a fact requires first a decision on the criteria of relevance on the appropriate measurement.
This is the hinge of the effective decision, and usually its most controversial aspect.
- decide : 決める、決定(決意、決心)する、解決する、結論を出す、判断をする
- determine : 特定する、つきとめる、決定する、解決する、決意する、決心する
- criteria : 基準、尺度
- relevance : 適切さ、妥当性、関連性
- appropriate : 適切な、ふさわしい、独特の
- measurement : 測定、測量、寸法
- the criteria of relevance on the appropriate measurement : 正しく評価するための適切な尺度
- hinge : かなめ、要点、ちょうつがい、関節
- controversial : 議論の余地のある、異論の多い、論争を呼ぶ
- aspect : 側面、観点、局面、外観
正しい決定は、共通の理解と、対立する意見、競合する選択肢をめぐる検討から生まれる。
The understanding that underlies the right decision grows out of the clash and conflict of divergent opinions and out of the serious consideration of competing alternatives.
- underlie : の基礎となる、根拠をなす、背後にある
- the understanding that underlies the right decision : 正しい決定の基礎となる認識は、
- grow out of : ~から生まれる
- the clash and conflict of divergent opinions : 異なる意見の対立と衝突
- the serious consideration of competing alternatives : 競合する選択肢について真剣に考えること
最初に事実を把握することはできない。
有意性の基準がなければ事実というものがありえない。
事象そのものは事実ではない。
To get the facts first is impossible.
There are no facts unless one has a criterion of relevance.
Events by themselves are not facts.
- unless : ~しない限り、~でない限り、もし~でなければ
- event : 出来事、事象、行事
人は意見からスタートせざるをえない。最初から事実を探すことは好ましいことではない。
すでに決めている結論を裏づける事実を探すだけになる。
見つけたい事実を探せないものはいない。
People inevitably start out with an opinion; to ask them to search for the facts first is even undesirable.
They will simply do what everyone is far too prone to do anyhow: look for the facts that fit the conclusion they have already reached.
And no one has ever failed to find the facts he is looking for.
- inevitably : 必然的に、必ず
- undesirable : 望ましくない、厄介な、好ましくない
- prone : 傾向がある、~しがちな
まず初めに、意見を持つことを奨励しなければならない。
そして意見を表明した後、事実による検証を求めなければならない。
「仮説の有効性を検証するためには何を知らなければならないか。意見が有効であるためには事実はどうあるべきか」を問う必要がある。
The effective executive encourages opinions.
But he insists that the people who voice them also think through what it is that the “experiment” - that is, the testing of the opinion against reality - would have to show.
The effective executive, therefore, asks: “What do we have to know to test the validity of this hypothesis?” “What would the facts have to be to make this opinion tenable?"
- encourage : 励ます、勇気づける、奨励する、勧める
- insist : 主張する、要求する
- thing through : 考え抜く
- experiment : 実験、試み
- validity of this hypothesis : この仮説の正当性
- tenable : 弁護できる、批判に耐えうる
第6章では意思決定の一般的なやり方として①問題の種類を知る②必要条件を明確にする③何が正しいかを知る④行動に変える⑤フィードバックを行う、という五つのステップを紹介し、この第7章では、そのような意思決定のステップに入る前提として成果をあげる方向を見失わないために、組織の皆が意識しておかなくてはならないことについて述べています。
「まずは事実を把握しよう」から始まることは誤りであるとしつこいくらい繰り返しています。それは、人によって見える事実が異なるからです。
したがって共通の理解を得るためには、それぞれの人が言っていることは意見であり、それが有効であるためには検証が必要だ、そうして組織として事実が何かを決めていく必要があるということなのだと思います。
2013/6/6
update : 2015/12/30
正しい意思決定の要件②
おそらくここに置いて決定的に重要な問いが「有意性の基準は何か」である。
この問いへの答えから、検討中の意思決定に必要な評価測定の基準が得られる。
成果をあげる正しい決定がいかに行われたかを分析すれば、極めて多くの思考と労力が評価測定の基準を得ることに投じられていることを知る。
Perhaps the crucial question here is: “What is the criterion of relevance?"
This, more often than not, turns on the measurement appropriate to the matter under discussion and the decision to be reached.
Whenever one analyzes the way a truly effective, a truly right, decision has been reached, one finds that a great deal of work and thought went into finding the appropriate measurement.
- crucial : 極めて重大な、必要不可欠な、決定的な
- relevance : 関連性、妥当性、適切さ
- more often than not : たいてい、しばしば
- matter under discussion : 討議中の問題
- appropriate measurement : 適切な評価基準
昨日の決定は昨日の評価基準を反映している。
新しい決定が必要なったということは、それまでの評価測定の基準がもはや意味を失ったことを意味する。
The traditional measurement reflects yesterday’s decision.
That there is need for a new one normally indicates that the measurement is no longer relevant.
- traditional : 伝統的な、慣習的な、従来の
- reflect : 反射する、反響する、反映する
- indicate : 示す、指摘する、指ししめす、意味する
- no longer : もはや~ない
評価測定のための基準を見出す最善の方法は、すでに述べたように、自ら出かけ、現実からフィードバックを得ることである。つまるところこれは、決定前のフィードバックである。
The best way to find the appropriate measurement is again to go out and look for the “feedback” discussed earlier - only this is “feedback” before the decision.
判断を行うためにはいくつかの選択肢が必要である。
一つの案しかなく、それにイエス、ノーをいうだけでは判断とはいえない。
いくつかの選択肢があって初めて、何が問題であるかについて正しい洞察が得られる。
したがって決定によって成果を上げるには、評価測定の基準についても幾つかの選択肢が必要である。 それらの中から最も適切な基準を選び出さなければならない。
Whenever one has to judge, one must have alternatives among which one can choose.
A judgement in which one can only say “yes” or “no” is no judgement at all.
Only if there are alternatives can one hope to get insight into what is truly at stake.
Effective executive therefore insist on alternatives of measurement - so that they can choose the one appropriate one.
- alternative : 選択肢
- get insight : 見抜く、本質を捉える、深く理解する
- be at stake : 問題となっている、争点になっている
- insist on : 主張する、要求する、こだわる
「有意性」という難しい言葉が出てきました。ドラッカーはこの理解を助けるために一つの例を挙げています。
「物理においては物の味は事実ではない。またかなり最近まで物の色も事実ではなかった。これに対し、料理においては味は格段に重要な事実である。絵画においては色が意味をもつ。それぞれ異なるものを事実とする。」
というわけで、「価値観」と言い換えても良さそうです。
前項から引き続いて考えると、人が事実と思っているのはほとんどが自分の価値観から物事を見たときの意見であり、その価値観(すなわち有意性)を明らかにする必要があるということだと思います。
そして、それが成果をあげる意思決定の評価基準になっていくと述べているのです。
さらに、組織・集団の価値観として共有していくために、いくつかの選択肢を作り、どれが大事なのかを検討することによって、組織として何が正しいかを決めていくことができるとしています。
2013/6/7
update :2015/12/30
意見の不一致を必要とする
決定において最も重要なことは、意見の不一致が存在しないときには決定を行うべきではないということである。
The first rule in decision-making is that one does not make a decision unless there is disagreement.
- unless : もし~でなければ、~でない限り
- disagreement : 意見の相違、不賛成、異議、不一致
意見の不一致は、三つの理由から必要である。
第一に、組織の囚人になることを防ぐからである。
あらゆる者が、決定を行う者から何かを得ようとしている。特別のものを欲し、善意のもとに都合のよい決定をしてもらおうとする。
There are three main reasons for the insistence on disagreement.
It is, first, the only safeguard against the decision-maker’s becoming the prisoner of the organization.
Everybody is a special pleader, trying - often in perfectly good faith - to obtain the decision he favors.
- insistence : 主張、こだわり、強要
- safeguard : 保護手段、防御装置、安全装置
- prisoner : 囚人、受刑者、捕虜
- plead : 懇願する、嘆願する、弁解する
- in good faith : 誠実に、善意で、信用して
- obtain : 獲得する
- favor : 有利になる、好都合である、賛成する、支持する
第二に、選択肢を与えるからである。
いかに慎重に考え抜いても、選択肢のない決定は向こう見ずなばくちである。
Second, disagreement alone can provide alternatives to a decision.
And a decision without an alternative is a desperate gambler’s throw, no matter how carefully thought through it might be.
- provide : 提供する、与える
- desperate : 絶望した、自暴自棄の、破れかぶれの
- no matter how : どんなに~であろうとも
意見の不一致が必要な理由の第三は、想像力を刺激するからである。
想像力、すなわち知覚と理解が必要である。
Above all, disagreement is needed to stimulate the imagination.
This means that one needs imagination - a new and different way of perceiving and understanding.
- stimulate : 刺激する、活気づける、鼓舞する
- a new and different way : 新しくて違った方法
- perceive : 理解する、知覚する、気づく
明らかに間違った結論に達している人は、自分とは違う現実を見、違う問題に気づいているに違いないと考えるべきである。
もしその意見が知的で合理的であるとするならば、彼はどのような現実を見ているのかを考えなければならない。
It has to be assumed that he has reached his so obviously wrong conclusion because he sees a different reality and is concerned with a different problem.
The effective executive, therefore, always asks: “What does this fellow have to see if his position were, after all, tenable, rational, intelligent?"
- it is assume that : ~と思われている
- obviously : 明らかに、はっきりと
- be concerned with : ~に関心を持つ、注意を向ける
- tenable : 弁護できる、批判に耐えうる
多くの組織では、形に残るもので言えば「稟議書」で意思決定を行っていて、表面的には押印する関係者の全員一致という結果が残ります。しかし、稟議書の作成過程では様々な対案の検討を行ってきていますし、必要な場合には稟議書の中にその検討過程を記録しておくこともあります。
ドラッカーはこれをもっと刺激的に、意図的に作り出すことを奨励しています。
ほとんどのサラリーマンがその属する組織からの給料を唯一の収入としているので「組織の囚人」になるのは仕方のないことだと思えます。しかし、意思決定に際しては、そういった個人の事情によらない結果を生み出さなくてはならないと、あえて刺激的な言葉を使ったのでしょう。
上記のように「いかに慎重に考え抜いても、選択肢のない決定は向こう見ずなばくちである。」とその重要性を前項に続いて指摘しています。
意見の不一致は、その当事者にとってはイライラするするものだし、感情が高ぶるものですが、正しい意思決定をするためにはあえてそれを作り出すことが必要なのです。
2013/6/10
update:2015/12/3
意思決定は本当に必要かを自問する
最後に意思決定は本当に必要かを自問する必要がある。
何も決定しないという代替案が常に存在する。
意思決定は外科手術である。
システムに関する干渉でありショックのリスクを伴う。
良い外科医が不要な手術を行わないように、不要な意思決定を行ってはならない。
There is one final question the effective decision-maker asks: “Is a decision really necessary?"
One alternative is always the alternative of doing nothing.
Every decision is like surgery.
It is an intervention into a system and therefore carries with it the risk of shock.
One does not make unnecessary decisions any more than a good surgeon does unnecessary surgery.
- alternative : 代わりとなるもの、選択肢、代替案
- intervention : 干渉、介入、仲介、調停
- surgeon : 外科医
正しい決定のための原則はない。
だが指針とすべき考えは明確である。個々の具体的な状況において、行動すべきか否かの決定が困難なケースはほとんどない。
第一に、得るものが犠牲やリスクを大幅に上回るならば行動しなければならない。
第二に、行動はするかしないかいずれかにしなければならない。二股をかけたり両者の間を取ろうとしたりしてはならない。
There is no formula for the right decision here.
But the guideline are so clear that decision in the concrete case is rarely difficult.
There are:
- Act if on balance the benefits greatly outweigh cost and risk;
and - Act or not act; but do not “hedge” or compromise.
- formula : 解決策、秘訣、公式、処方箋
- concrete case : 具体的なケース
- outweigh : ~より重要である、~より価値がある、~に勝る
- hedge : 防衛手段、両賭け
- compromise : 妥協、譲り合い、歩み寄り、折衷案
半分の行動こそ常に誤りである。必要最低限の条件、すなわち必要条件を満足し得ない行動である。
To take half-action is the one thing that is always wrong, and the one sure way not to satisfy the minimum specifications, the minimum boundary conditions.
- boundary condition : 境界条件
決定が満たすべき必要条件は十分に検討し、選択肢はすべて検討し、得るべきものとリスクはすべて天秤にかけた。
何を行うべきかは明らかであり決定はほぼ完了した。
しかし決定の多くが行方不明になるのがここである。
決定が愉快でなく、評判も良くなく、容易でないことが急に明らかになる。
決定には判断と同じくらい勇気が必要であることが明らかになる。
The specifications have been thought through, the alternative explored, the risks and gains weighed.
It is always reasonably clear by now what course of action must be taken.
And it is at this point that most decision are lost.
It becomes suddenly quite obvious that the decision is not going to be pleasant, is not going to be popular, is not going to be easy.
It becomes clear that a decision requires courage as much as it requires judgement.
- explore : 探検する、調べる、検討する
- reasonably : まずまず、かなり、適切に、当然
- clear by now : すでに明らかになっている
- obvious : 明らかな、すぐわかる、わかりきった
- courage : 勇気、度胸
ここで絶対にしてはならないことがある。
もう一度調べようとの声に負けることである。
それは臆病者の手である。臆病者は勇者が一度死ぬところを1000回死ぬ。
自らの決断力のなさのために有能な人たちの時間を無駄にすべきではない。
One thing the effective executive will not do at this point.
He will not give in to the cry, “Let’s make another study."
This is the coward’s way - and all the coward achieves is to die a thousand deaths where the brave man dies but one.
He does not waste the time of good people to cover up his now indecision.
- coward : 臆病者、卑怯者
- brave man : 勇者
- cover up : 身を包む、服を着る、かばう
意思決定は成果をあげるために行うのですから、リスクやデメリットを大幅に上回る効果があるなら行動に移さなければならないが、そうでないなら「何もしない」という決定も常に代替案であるとしています。
何も決定しないという選択肢は、一見楽な逃げ道を作ってくれたような気がしますが、実は「なぜ何も決定しないのか」という根拠が必要な勇気ある決断なのだと思います。
ここで、中途半端な行動こそ良くないと戒めています。ありがちなのは、決定によっていくつかの行動を変えることにしたものの、「とりあえずできることから」と言ってハードルの高い行動を先延ばしにしてしまうようなことです。これこそ半分の行動であり常に誤りだと言われているので、気をつけなくてはなりません。
後段では、せっかく条件が整ったのに決定が行方不明になってしまうことを嘆いています。それは何もしないという決定とは違う、決定から逃げている臆病者だ、と実に耳の痛いところを突いてきます。
でも逆に、勇気を出して決断せよ、と背中を押してくれていると考えるべきなのかもしれませんね。
2013/6/11
update:2015/12/30
意思決定とコンピュータ
コンピュータの強みは、論理的な機械であるところにある。
それはプログラムに組まれたことを正確に行う。
迅速かつ正確に行う。
The strength of the computer lies in its being a logic machine.
It does precisely what it is programed to do.
It is doing the simple and obvious.
- lie : (状態)にある、置かれている、横たわる
- precisely : 正確に、ちょうど、
- obvious : 明らかな、明確な、わかりきった
これに対し、人は論理的ではない。知覚的である。
ということは遅くていい加減だということである。
しかし人は聡明であり洞察力がある。
応用力がある。すなわち人は、不十分な情報から、あるいは情報なしでも、全体像がどのようなものでありうるかを推し量ることができる。
プログラム化していないことを考えることができる。
The human being, by contrast, is not logical; he is perceptual.
This means that he is slow and sloppy.
But he is also bright and has insight.
The human being can adapt; that is, he can infer from scanty information or from no information at all what the total picture might be like.
He can remember a great many things nobody has programed.
- perceptual : 理解力の、知覚力の、知覚による
- sloppy : ずさんな、手抜きの、だらしない、びしょ濡れの
- insight : 見識、洞察、深い理解
- adapt : 適合させる、順応する、適応する
- infer : 推量する、推察する、推測する
- scanty : 不十分な、乏しい
コンピュータに期待するものに関しては、十分な検討のもとに予め決定を行っておかなければならない。
もはやその場しのぎという形での決定は許されない。
意思決定はもはや、小さな適応の連鎖、問題処理の積み重ね、大まかな対応、事実上の決定という形では行えなくなる。
意思決定は基本方針についてのものでなければならなくなる。
To the extent to which the computer is expected to carry out predetermined reactions to expected events the decision has to be anticipated and thought through.
It can no longer be improvised.
It can no longer be groped for in a series of small adaptations, each specific, each approximate, each, to use physicist’s terminology, a “virtual” rather than a real decision.
It has to be a decision in principle.
- extent : 範囲、限界
- carry out : 実施する、行う、果たす
- predetermined reaction to expected events : 予想される出来事に対してあらかじめ決めておいた反応
- activate : 備えておく、~を見越して対策を講じる
- improvise : 即興で作る、即席に作る
- grope : 手探りで探す、手探りで進む
- approximate : おおよその、大体の、よく似た
- physicist terminology : 物理学者の専門用語
- virtual : 事実上の、実質上の、仮想の
かつてはトップマネジメントというきわめて小さな機関に特有の機能だったものが、今日の社会的機関すなわち大規模な知識組織においては、急速に、あらゆる人の、あらゆる組織単位の、通常の仕事となりつつある。
今日では意思決定をする能力は、知識労働者にとってまさに成果をあげる能力そのものである。
What in the past had been a highly specialized function, discharged by a small and usually clearly defined organ - with the rest adapting within a mold of custom and usage - is rapidly becoming a normal if not an everyday task of every single unit in this new social institution, the large-scale knowledge organization.
The ability to make effective decisions increasingly determines the ability of every knowledge worker, at least of those in responsible positions, to be effective altogether.
- highly specialized function : 高度に専門化された機能
- discharge : 解放する、免除する、解雇する、放出する、
- within a mold of custom and usage : 慣例や慣習の型に囲まれて
- responsible position : 責任ある地位
戦略的な意思決定に関してコンピュータを使うには、明快な分析、特に意思決定が満たすべき必要条件についての分析が必要となる。
つまり、リスクを伴う高度な意思決定が必要となる。
The computer demands clear analysis, especially of the boundary conditions the decision has to satisfy.
And that requires risk-taking judgement of a high order.
- boundary condition : 境界条件
- high order : 高い等級の、ハイレベルの
コンピュータの出現が、意思決定に対する関心に火をつけることになった理由は多い。
しかしそれはコンピュータが意思決定を乗っ取るからではない。
コンピュータが計算を乗っ取ることによって、組織の末端の人間までがエグゼクティブとなり、成果をあげる決定を行わなければならなくなったからである。
There is indeed ample reason why the appearance of the computer has sparked interest in decision-making.
But the reason is not that the computer will “take over” the decision.
The reason is that with computer’s taking over computation, people all the way down the line in the organization will have to learn to be executives and to make effective decisions.
- indeed : 本当に、実に、全く、確かに
- ample : 十分すぎるほどの、豊富な
- spark : 引き金となる、生じさせる、火花を出す、活気づく
- take over : 取って代わる
- all the way : ずっと、はるばる、様々に、完全に、すっかり
- down the line : 全面的に、完全に、徹底的に
- have to learn to be executive : エグゼクティブになるべく学ばなければならない
本書は1966年の著作です。当然パソコンのようなものは世の中にありません。IBMの有名なSystem/360の発売が1964年ですから、まだコンピュータの一般ユーザーも少ない中、コンピュータの出現によって人々の仕事がどう変わっていくのかを予測しています。
さて、今の私たちはそれから50年を経過して、どうなっているでしょう。
確かに、コンピュータを使うためにどんなシステムにするか、どんな環境で使わせるかといった条件をあらかじめ決めた上で構築するという、上記のように「あらかじめ明快な分析を必要とする」という通りになっています。
そしてその決定は、トップマネジメントがこうあるべきと意思決定をしたものを実現するのではなく、現場の担当者が集まって要件定義を行いシステム構築をするという、まさに「組織の末端までの人間が成果をあげる決定を行う」という状態になっています。
多分「情報システム」などという言葉がなかった時代に、これを予測していたとはドラッカーの洞察力には驚嘆させられます。
2013/6/12
update:2015/12/30