一つのことに集中せよ They concentrate on doing one thing

成果をあげるための秘訣を一つだけ挙げるならば、それは集中である。
成果をあげる人は最も重要なことから始め、しかも一度に一つのことしかしない。

If there is any one “secret” of effectiveness, it is concentration.
Effective executive do first things first and they do one thing at a time.

  • first things first : 最も重要なことをまず第一に、何はともあれ

人には驚くほど多様な能力がある。人はよろず屋である。
だがその多様性を生産的に使うには、それらの多様な能力を一つの仕事に集中することが不可欠である。
あらゆる能力を一つの成果に向けるには集中するしかない。

Mankind is indeed capable of doing an amazingly wide diversity of things; humanity is a “multipurpose tool."
But the way to apply productivity mankind’s great range is to bring to bear a large number of individual capabilities on one task.
It is concentration in which all faculties are focused on one achievement.

  • be capable of doing : ~する能力がある
  • diversity : 多様性、雑多なこと、相違
  • multipurpose : 多目的な、多用途の
  • bear : ~に耐える、負担する
  • faculty : 機能、能力、才能

集中は、あまりに多くの仕事に囲まれているからこそ必要となる。
なぜなら一度に一つのことを行うことによってのみ早く仕事ができるからである。
時間と労力と資源を集中するほど、実際にやれる仕事の数と種類は多くなる。

Concentration is necessary precisely because the executive faces so many tasks clamoring to be done.
For doing one thing at a time means doing it fast.
The more one can concentrate time, effort, and resources, the grater the number and diversity of tasks one can actually perform.

  • precisely because : まさに~が理由で
  • clamor : 求める、要求する、騒ぐ、叫ぶ

(何も成し遂げない人がしばしばすごく勤勉に働いている。)
成果のあがらない人は、第一に、一つの仕事に必要な時間を過小評価する。
第二に、急ごうとする。そのためさらに遅れる。
第三に、同時にいくつかのことをする。いずれか一つが問題にぶつかると全てがストップする。

The people who get nothing done often work a great deal harder.
In the first place, they underestimate the time for any one task.
In the second place, the typical (that is, the more or less ineffectual) executive tries to hurry - and that only put him further behind.
Finally, the typical executive tries to do several things at once. If any one of them runs into trouble, his entire program collapses.

  • underestimate : 過小評価する、見くびる、少なく見積もる
  • typical : 典型的な、代表的な、普通の、特有の
  • more or less : 多かれ少なかれ、ある程度、ほとんど
  • ineffectual : 能力に欠ける、効果の上がらない
  • further : さらに、よりいっそう、どんどん
  • behind : 遅れて、後方に、滞って、リードされて
  • run into : 出くわす、遭遇する
  • collapse : 崩壊する、頓挫する、意識を失う

成果をあげる人は、多くのことをなさなければならないこと、しかも成果を上げなければならないことを知っている。
したがって、自らの時間とエネルギー、そして組織全体の時間とエネルギーを一つのことに集中する。最も重要なことを最初に行うべく集中する。

Effective executives know that they have to get many things done - and done effectively.
Therefore, they concentrate - their own time and energy as well as that of their organization - on doing one thing at a time, and on doing first things first.

  第5章に入りました。成果をあげる能力の4つ目「集中すること」について述べられています。

 時間管理とも関係してきますが、一度に複数の仕事を並行して進めようとすると、どうしても時間も細切れになってしまいます。第一の能力である時間管理ができていない状態になってしまうのです。

 まとまった時間を作ってそこで集中して一つのことに取り組む、それが成果をあげる秘訣ということですね。

 やらなければならない仕事が同時たくさんある場合にこそ、一つずつ片付けていくことが大切で、それが一番時間を短縮できるといっています。実際には、電話、メール、その他の割り込みによって集中が妨げられることが多いのですが、そこを耐えて集中です。

 成果のあがらない人の特徴も挙げられています。「それができれば苦労はない」と言いたくなるところですが、これを意識して少しずつでも集中できる時間を取っていくことにより、それを習慣化していくことができるのだと思います。

2013/5/23
renew:2015/10/28

過去を計画的に廃棄する Sloughing Off Yesterday

集中のための第一の原則は、生産的でなくなった過去のものを捨てることである。
そのためには自らの仕事と部下の仕事を定期的に見直し、「まだ行っていなかったとして、今これに手をつけるか」を問うことである。
答えが無条件のイエスでない限り、やめるか大幅に縮小すべきである。

The first rule for the concentration of executive efforts is to slough off the past that has ceased to be productive.
Effective executives periodically review their work programs - and those of their associates - and ask: “If we did not already do this, would we go into it now?"
And unless the answer is an unconditional “Yes,” they drop the activity or curtail it sharply.

  • slough off : 脱ぎ捨てる、脱却する、捨て去る
  • cease : 終わる、止む、しなくなる
  • periodically : 定期的に、間をおいて
  • unconditional : 無条件の、完全な、無制限の
  • curtail : きりつめる、縮小する、短縮する、抑える

完全な失敗を捨てることは難しくない。
自然に消滅する。
ところが昨日の成功は非生産的になった後も生き続ける。
もう一つそれよりもはるかに危険なものがある。本来うまくいくべきでありながら、なぜか成果の上がらないまま続けている仕事である。

No one has much difficulty getting rid of the total failures.
They liquidate themselves.
Yesterday’s successes, however, always linger on long beyond their productive life.
Even more dangerous are the activities which should do well and which, for some reason or other, do not produce.

  • get rid of : 捨てる、廃棄する、取り除く、免れる
  • liquidate : 抹殺する、一掃する、会社を清算する
  • linger : 居残る、生きながらえる、時間をかけて楽しむ、長引く
  • for some reason or other : 何らかの理由で、何か訳があって、なぜか、どういうわけか

あらゆる組織がこの種の活動を抱えたままとなる。
政府機関に著しい。
政府の計画や活動も、他の組織の計画や活動と同じように急速に古くなる。
だが政府機関においては、それらは永遠の存在とみなされるばかりでなく、政省令によって構造化され、議会の族議員と結びついて既得権と化していく。

Every organization is highly susceptible to these twin diseases.
But they are particularly prevalent in government.
Government programs and activities age just as fast as the programs and activities of other institutions.
Yet they are not only conceived as eternal; they are welded into the structure through civil service rules and immediately become vested interests, with their own spokesmen in the legislature.

  • susceptible : 影響を受けやすい、感染しやすい、敏感な
  • disease : 病気、疾患、堕落
  • prevalent : 流行している、広く行き渡っている
  • age : 歳をとる、古くなる、老けて見える
  • conceive as : ~と考える
  • eternal : 永遠の、不滅の
  • weld into : をまとめる、結合させる
  • vested interest : 既得権者
  • legislature : 議会

つまるところ、成果を上げる者は、新しい活動を始める前に必ず古い活動を捨てる。
肥満防止のためである。
組織は油断するとすぐ体型を崩し、締まりをなくし、扱いがたいものとなる。
人からなる組織も、生物の組織と同じようにスマートかつ筋肉質であり続けなければならない。

Above all, the effective executive will slough off an old activity before he starts on a new one.
This is necessary in order to keep organizational “weight control."
Without it, the organization soon loses shape, cohesion, and manageability.
Social organizations need to stay lean and muscular as much as biological organisms.

  • cohesion : 結束、団結、結合
  • manageability : 扱いやすいもの、処理しやすいもの
  • lean : 引き締まった、スリムな
  • muscular : 筋肉の発達した、たくましい

古いものの計画的な廃棄こそ、新たしいものを強力に進める唯一の方法である。
アイディアが不足している組織はない。
創造力が問題なのではない。
せっかくの良いアイディアを実現すべく仕事をしている組織が少ないことが問題である。
皆が昨日の仕事に忙しい。
だがあらゆる計画や活動を定期的に審査し、有用性が証明されないものは廃棄するようにするならば、最も頑強な官僚組織においてさえ、創造性は驚くほど刺激されていく。

Systematic sloughing off of the old is the one and only way to force the new.
There is no lack of ideas in any organization I know.
“Creativity” is not our problem.
But few organizations ever get going on their own good ideas.
Everybody is much too busy on the tasks of yesterday.
Putting all programs and activities regularly on trial for their lives and getting rid of those that cannot prove their productivity work wonders in stimulating creativity even in the most hidebound bureaucracy.

  • get going on : ~をどんどんやる、~を急ぐ
  • get rid of : ~を取り除く、処分する
  • stimulate : 刺激する、活気づける
  • hidebound : 融通の利かない、頑固な、偏狭な、保守的な
  • bureaucracy : 官僚制度

「最も頑強な官僚組織」という記述が出てきましたが、「イノベーションのジレンマ」のように過去を捨てられないというのは、政府組織に限らずどのような組織でも起きやすいものです。

 族議員と結びついて既得権と化す、という部分は、企業で言えば、これまで組織を継続させてきた製品やサービスとそれを使う顧客ということになります。

 一人ひとりの仕事の視点で見た場合、特にルーチン化された仕事には、いつの間にかその作業内容と求められる成果がずれていくことに気づきにくいといえます。

 マニュアル化や標準化というのは、作業そのものの効率化と品質確保には大変役に立ちます。

 しかし、その作業の目的や成果とするものを考えることなく、ただ「こなす」だけの日常を送るのではなく、定期的にその目的と作業内容があっているかどうかを、見直す必要があるということを指摘しているのです。

2013/5/24
renew:2015/10/31

劣後順位の決定が重要 Priorities and Posteriorities

どの仕事が重要であり、どの仕事が重要でないかの決定が必要である。
唯一の問題は、何がその決定をするかである。自らが決定するか仕事からの圧力が決定するかである。
圧力に屈したときには重要な仕事が犠牲にされる。
特に、仕事のうち最も時間を使う部分、意思決定を行動に変えるための時間がなくなる。

A decision has to be made as to which tasks deserve priority and which are of less importance.
The only question is which will make the decision - the executive or pressures.
If the pressures rather than the executive are allowed to make the decision, the important tasks will predictably be sacrificed.
Typically, there will then be no time for the most-consuming part of task, the conversion of decision into action.

  • deserve : ふさわしい、~に値する、~して当然である、~の価値がある
  • allow : 許す、認める、容認する
  • predictably : 予想通りに
  • sacrifice : 犠牲にする、あきらめる

状況への圧力は、未来よりも過去を、機会よりも危機を、外部よりも内部を、重大なものよりも切迫したものを優先する。
実は、本当に行うべきことは優先順位の決定ではない。
優先順位の決定は比較的容易である。(誰もができる。)
集中できる者があまりに少ないのは、劣後順位の決定、すなわち取り組むべきではない仕事の決定とその決定の順守が至難だからである。


The pressures always favor what has happened over the future, the crisis over the opportunity, the immediate and visible over the real, and the urgent over the relevant.
The job is, however, not to set priorities.
That is easy. Everybody can do it.
The reason why so few executives concentrate is the difficulty of setting “posteriorities” - that is, deciding what tasks not to tackle - and of sticking to the decision.

  • favor : 賛成する、支持する、優遇する、恵まれる
  • urgent : 緊急の、切迫した
  • relevant : 実質的価値がある、適切な、妥当な、関連がある

劣後順位第一位を決定することは、楽しいことではない。
誰かにとってはそれが優先順位第一位であるに違いないからである。
優先事項を列挙し、そのすべてに少しずつ手をつけることによって弁解の余地を作っておく方がはるかに容易である。
皆を満足させられる。
もちろんこの方法の唯一の欠陥は、何事もなされないという結果に終わることである。


Setting a posteriority is also unpleasant.
Every posteriority is somebody else’s top priority.
It is much easier to draw up a nice list of top priorities and then to hedge by trying to do “just a little bit” of everything else as well.
This makes everybody happy.
The only drawback is, of course, that nothing whatever gets done.

  • unpleasant : 不愉快な、不快な、嫌な
  • draw up list : リストを作成する
  • hedge : はぐらかす、言葉を濁す、損失を防ぐ策をとる
  • drawback : 欠点、不利な点、障害

優先順位の決定には、いくつか重要な原則がある。すべて分析ではなく勇気に関わるものである。
第一に、過去ではなく未来を選ぶ。
第二に、問題ではなく機会を選ぶ。
第三に、横並びではなく独自性をもつ。
第四に、無難で容易なものではなく変革をもたらすものを選ぶ。


Courage rather than analysis dictates the truly important rules for identifying priorities:
Pick the future as against the past;
Focus on opportunity rather than on problem;
Choose your own direction - rather than climb on the bandwagon; and
Aim high, aim for something that will make a difference, rather than for something that is “safe” and easy to do.

  • dictate : 厳しく命令する、指示する、押し付ける、決定づける
  • clime on the bandwagon : 時の趨勢に従って行動する、時流に乗る
  • aim : 目標とする、目指す、~しようと努力する

現在集中して取り組んでいる仕事以外のものにコミットしてはならない。
現在の仕事を終わらせた後、改めて状況を検討し、優先すべき次の仕事を選ばなければならない。
集中とは、「真に意味あることは何か」「最も重要なことは何か」という観点から時間と仕事について自ら意思決定をする勇気のことである。 この集中こそ、時間や仕事の従者となることなくそれらの主人となるための唯一の方法である。


The effective executive does not truly commit himself beyond the one task he concentrates on right now.
Then he reviews the situation and picks the next one task that now comes first.
Concentration - that is, the courage to impose on time and events his own decision as to what really matters and comes first - is the executive’s only hope of becoming the master of time and events instead of their whipping boy.

  • commit oneself : 取り組む、入れ込む、専念する、約束する
  • impose : ~を課す、負わせる、押し付ける
  • whipping boy : 身代わり、罪をなすりつけられた人

 仕事を緊急性と重要性の二軸で分類する方法があります。「重要かつ緊急」の仕事は優先度が高く「重要でもないし緊急でもない」仕事は優先度が低い。「重要だが緊急ではない」仕事を優先しないと「重要ではないが緊急な」仕事に時間を取られて、重要なことにいつまでも手を付けられなくなるというものです。

 ドラッカーのいう劣後順位を決めろというのもこれに似ていますが、もっと過激かもしれません。

 劣後順位をつけられた仕事は延期ではなく、実際には中止を意味するというところが、その決定を尻込みさせてしまいます。やらなくて良い仕事なんてあるはずがないと考えてしまうからです。

 過去から続けている方法ではなく新しいやり方を優先する、横並びではなく独自性を優先する、組織内部の承認よりも外部への貢献を優先する、いずれも、誰かの反対に合って萎えてしまいそうな選択です。どれも「勇気」のいる選択ですが、それをやることが成果につながるのだということなのでしょう。

2013/5/27
renew:2015/10/31