強みによる人事 Staffing from Strength①

強みに関わる最大の問題は人事である。
成果を上げるにはできることを中心に据えて異動を行い昇進させなければならない。
人事において重要なことは、弱みを最小限に抑えることではなく強みを最大限に発揮させることである。

The area in which the executive first encounters the challenge of strength is in staffing.
The effective executive fills positions and promotes on the basis of what a man can do.
He does not make staffing decisions to minimize weakness but to maximize strength.

  • encounter:〈問題困難反対など〉に直面する, 遭う
  • fill position:ポジションを占める

大きな強みを持つ者はほとんど常に大きな弱みをもつ。
山のあるところには谷がある。
しかもあらゆる分野で強みを持つ者はいない。
人の知識、経験、能力の全領域からすれば、偉大な天才も落第生である。

Strong people always have strong weakness too.
Where there are peaks, there are valleys.
And no one is in strong in many areas.
Measured against the universe of human knowledge, experience, and abilities, even the greatest genius would have to be rated a total failure.

  • measured against:~を比較する
  • be rated:格付けされる

鉄鋼王アンドリュー・カーネギーが自らの墓碑銘に刻ませた「おのれよりも優れた者に働いてもらう方法を知る男、ここに眠る」との言葉ほど大きな自慢はない。 これほど成果をあげるための優れた方法はない。

There is no producer boast, but also no better prescription, for executive effectiveness than the words Andrew Carnegie, the father of the U.S. steel industry, chose for his own tombstone: “ Here lies a man who knew how to bring into his service men better than he was himself."

  • boast:自慢する、誇る、鼻にかける
  • prescription:処方箋
  • but also:しかし…でもある
  • tombstone:墓石、墓碑

人に成果をあげさせるには、「自分とうまくいっているか」を考えてはならない。
「いかなる貢献ができるか」を問わなければならない。
「何ができないか」を考えてもならない。
「何を非常によくできるか」を考えなければならない。
特に人事では一つの重要な分野における卓越性を求めなければならない。

Effective executives never ask “How does he get along with me?"
Their question is “What does he contribute?"
Their question is never “What can a man not do?"
Their question is always “What can he do uncommonly well?"
In staffing they look for excellence in one major area, and not performance that gets by all around.

  • get along with:仲良くやっている、うまくやっていく
  • uncommonly:非常に、たいそう
  • not performance that gets by all around:たくさんの分野で何とかうまくやっていくのではなく

 第4章は、人がそれぞれの強みを生かしてその本人と組織とがともに成果を上げ、ともに成長することを願って書かれています。

 人にはいろいろな強みがあります。読んで理解するのが早い、自分の考えを言葉に表すのがうまい、緻密に深くこつこつと調査研究できる、状況の変化に柔軟に適応できる、最適な選択肢を瞬間的に見つけられる、情報や知識を集めてくるのがうまい、周囲を巻き込んで活気あるチームを作るのが得意、問題を見つけ解決するのが好きだ、、、

 同時に人は弱みを持ちます。例えば、読んで理解する人は、口頭で指示を受けたり報告を受けても理解できないかもしれません。状況変化への対応力が高い人は、同じ仕事の繰り返しではミスを連発するかもしれません。瞬間的に最適な選択肢を見つけられる人は、可能性を一つひとつつぶしていくような地道な仕事はできないでしょう。

 強みは人それぞれですが、卓越した強みは最初から卓越している訳ではありません。人よりも少しうまくできることをどんどん磨いていって、訓練して、卓越した強みになっていくのです。

 したがって、人は組織の成果に貢献するために自分の強みを磨く責任があるし、逆に組織にも所属する人の強みを伸ばしていく責任があるということなのです。

2013/5/17
update:2015/10/8

強みによる人事 Staffing from strength②

強みを生かすということは成果を要求することである。
何ができるかを最初に問わなければ、貢献してもらえるものよりもはるかに低い水準で我慢せざるをえない。
成果を上げることを初めから免除することになる。

To focus on strength is to make demands for performance.
The man who does not first ask, “What can a man do?” is bound to accept far less than the associate can really contribute.
He excuses the associate’s nonperformance in advance.

  • be bound to do : …する義務がある、きっと…するはず
  • accept : 受諾する、受け取る、容認する
  • associate : 仲間、同僚

組織とは、強みを成果に結びつけつつ、弱みを中和し無害化するための道具である。

Organization is the specific instrument to make human strength redound to performance while human weakness is neutralized and largely rendered harmless.

  • redound : 【名声信用利益などを】高める, 増す
  • neutralize : 〈力効能など〉を無効[無力]にする
  • render : <状態>にする(make)
  • harmless : 害のない、害を加えない、悪気のない

人の強み、特に同僚の強みを生かすことのできる者はなぜ稀なのか。
主たる理由は、目の前の仕事が人の配置ではなく仕事の配置として現れているからである。
ものの順序として仕事からスタートしてしまい、次の段階としてその仕事に配置すべき人を探すということになるからである。
仕事は客観的に設計しなければならない。人の個性ではなく、なすべき仕事によって設計しなければならない。

Why are executives rare who make strength productive - especially the strength of their associates?
The main reason is that the immediate task of the executive is not to place a man; it is to fill a job.
The tendency is therefore to start out with the job as being a part of the order of nature. Then one looks for a man to fill the job.
Jobs have to be objective; that is, determined by task rather than by personality.

  • immediate : 目下の、当面の、急を要する
  • fill a job : 職に就く、職場の空きを埋める
  • tendency : 傾向、風潮、趨勢
  • order of nature : 自然の摂理、自然界の法則
  • objective : 客観的な、私情を交えない
  • work,job, task : workは「仕事労働」を表す最も一般的な語.。肉体的作業・精神的作業のいずれにも用いる。抽象概念もさすworkと比べ, jobとtaskは共に具体的なやるべき仕事をさすが, ⦅話⦆ではjobが, ⦅書⦆ではtaskが好まれる。 taskは通例課せられた困難な作業を言う。

業績は、貢献や成果という客観基準によって評価しなければならない。
しかしそれは、仕事を非属人的に規定し構築して初めて可能となる。
さもなければ、「何が正しいか」ではなく、「誰が正しいか」を重視するようになる。
人事も「秀でた仕事をする可能性」ではなく、「好きな人間は誰か」「好ましいか」によって決定するようになる。

Achievement must be measured against objective criteria of contribution and performance.
This is possible, however, only if jobs are defined and structured impersonally.
Otherwise the accent will be on “Who is right?” rather than on “What is right?"
In no time, personnel decisions will be made on “Do I like this fellow?” or “Will he be acceptable?” rather than by asking “Is he the man most likely to do an outstanding job?"

  • criteria : 基準、尺度
  • otherwise : さもないと、そうでなければ
  • accent : 強調する、目立たせる
  • in no time : あっという間に
  • acceptable : 容認できる、納得のいく、我慢できる
  • be likely to do : …する可能性が高い
  • outstanding : 傑出した、特に優れた、目立った

 ここの記述は、「仕事」は人の個性ではなく、なすべき仕事によって客観的かつ非属人的に設計しなければならないと、「仕事」と「人」を別々に考えることを前提としています。

 「目の前の仕事が人の配置ではなく仕事の配置として現れる」という表現は、様々に解釈できます。

 前後の文脈からは、「仕事を人と分離して客観的に設計せず、成り行き任せ(the order of nature)で始めてしまうと、その仕事を埋めるために、人の強みを二の次にして配置してしまう。」したがって、仕事自体があるべき姿になってもおらず、人の強みとも合っていないという状態になりがちだという指摘ではないかと思います。

2013/5/20
renew:2015/10/8

強みによる人事 仕事を適切に設計する The job is well-designed.

いかにして、人に合うように仕事を設計するという陥穽に陥ることなく強みに基づいた人事を行うか。
四つの原則がある。
(1)仕事が自然の摂理や神の手によるものであるかのごとき前提から出発してはならない。
仕事は人の手によるものである。

How then do effective executives staff for strength without stumbling into the opposite trap of building jobs to suit personality?
By and large they follow four rules:
1 They do not start out with the assumption that jobs are created by nature or by God.
They know that they have been designed by highly fallible men.

  • stumble into : ~に偶然に巻き込まれる
  • opposite : 正反対の、逆の、全く異なる
  • by and large : 全体的に見て、概して
  • assumption : 仮定、想定、憶測、仮説
  • jobs are created by nature : 仕事は自然によって作られる
  • fallible : 間違いを犯しやすい、誤る可能性がある

まずは、仕事が適切に設計されていることを確かめなければならない。
もし適切に設計されていないならば、もはやそのような不可能な仕事を行わせるための天才を探そうとしてはならない。
仕事そのものを設計し直さなければならない。
組織を評価する基準は、天才的な人間の有無ではない。
平凡な人間が非凡な成果を上げられるか否かである。

The effective executive therefore first makes sure that the job is well-designed.
And if experience tells him otherwise, he does not hunt for genius to do the impossible.
He redesigns the job.
He knows that the test of organization is not genius.
It is its capacity to make common people achieve uncommon performance.

  • make sure : 確かめる、確認する、気をつける、確保する
  • hunt for : 探し回る
  • common people : 普通の人たち
  • uncommon performance : 非凡な成果

 仕事で人の強みを生かすためには、強みに合わせた仕事を作りたくなるが、それは間違っているとして、四つの原則を述べていきます。

 まずは上記のように、過去に担当した誰か天才的な(例外的な)人のために作られてしまった仕事を設計し直すことです。「普通の人では稀にしか持ちえない気質を要求する」ような仕事のことを指しています。

 本文中では、

販売管理と広告宣伝と販売促進を担当するマーケティング担当役員
アメリカのマンモス大学の総長
多国籍企業の海外担当副社長
大国における大使
などを、殺人的で不可能な仕事だと例示しています。

create:2015/10/14

強みによる人事 多くを要求する大きな仕事にする To make each job demanding and big.

(2)仕事はすべて、多くを要求する大きなものに設計しなければならない。
一人ひとりが、それぞれの強みを発揮するものでなければならない。
関わりのある強みが成果を上げられるよう、大きく設計することが必要である。

(2) The second rule for staffing from strength is to make each job demanding and big.
It should have challenge to bring out whatever strength a man may have.
It should have scope so that any strength that is relevant to the task can produce significant results.

  • demanding : 大変な努力を要する、厳しい、きつい、多くを要求する
  • bring out : ~を取り出す、〈才能・特徴など〉を引き出す
  • scope : 範囲、領域、視野、機会、余地
  • relevant : 関連がある、適切な、実質的価値がある
  • significant : 重要な、重大な、かなりの、相当な

成人として最初の仕事につくまでは、知識労働者は成果を上げる機会をもたない。
学校でできることは可能性を示すことだけである。
成果を上げることは、企業、政府機関、研究所、あるいは学校などにおける現実の仕事においてのみ可能である。
したがって、新人の知識労働者本人だけでなく、組織の他の人たち、すなわちほかの同僚や上司がまず明らかにすべき最も重要なことは、彼が何をできるかである。

Till he enters the first adult job, the knowledge worker never has had a chance to perform.
All one can do in school is to show promise.
Performance is possible only in real work, whether in a research lab, in a teaching job, in a business or in a government agency.
Both for the beginner in knowledge work and for the rest of organization, his colleagues and his superiors, the most important thing to find out is what he really can do.

  • promise : 約束、見込み、有望、兆し

知識労働者が貢献するには、組織の価値や目標が彼自身の専門知識や技能と同じように重要な意味を持つ。
ある組織においては適合した強みを持つものが、同種の別の組織には適合しないことがある。
したがって、知識労働者の最初の仕事は、彼自身と組織との適合をテストできるものでなければならない。

For the ability of a knowledge worker to contribute in an organization, the values and the goals of the organization are at least as important as his own professional knowledge and skills.
A young man who has the right strength for one organization may be a total misfit in another, which from the outside looks just the same.
The first job should, therefore, enable him to test both himself and the organization.

  • ability : 能力、才能、技量
  • at least : 少なくとも、最低でも、とにかく

若い知識労働者は、早い時期に「自分は自分の強みがものをいう適した仕事についているか」を自問しなければならない。
しかしもし彼の最初の仕事があまりに小さく容易であって、能力を引き出さず、経験の欠如さえカバーするよう設計されていたならば、この問いに答えるどころかこの問いを発することもできない。

The young knowledge worker should ask himself early: “Am I in the right work and in the right place for my strengths to tell?"
But he cannot ask this question, let alone answer it, if the beginning job is too small, to easy, and designed to offset his lack of experience rather than to bring out what he can do.

  • offset : 帳消しにする、相殺する、埋め合わせする

熱意に燃え誇るべき成果を上げている人とは、その能力が挑戦を受け活用されている人である。
これに対し、強い不満を持つ人はみな、言い方こそ違っても「能力が生かされていない」という。
仕事の大きさが、挑戦を受け能力を試すにはあまりに小さすぎるとき、若い知識労働者は組織を去るか、さもなければ急速に不機嫌で非生産的な未熟な中年となってしまう。

The ones who are enthusiastic and who, in turn, have results to show for their work are the ones whose abilities are being challenged and used.
Those that are deeply frustrated all say, in one way or another: “My abilities are not being put to use."
The young knowledge worker whose job is too small to challenge and test his abilities either leaves or declines rapidly into premature middle-age, soured, cynical, unproductive.

  • enthusiastic : 熱中して、熱心な、熱意のある
  • in turn : 順番に、次々と、今度は逆に、交代で
  • frustrate : 不満にさせる、失望させる
  • decline : 減少する、低下する、衰える
  • premature : しかるべき時よりも早い、早まった
  • sour : 不機嫌になる、気難しくなる
  • cynical : 懐疑的な、皮肉な、悲観的な

 人の強みを生かす人事を行うための二つ目の原則についての記述です。

 マニュアルワークの場合は、誰が担当しても同じ品質の成果を上げられるように、あらかじめ定義された作業内容の通りに作業することが要求されます。

 それによって組織は、一定以上の品質の確保を志向します。

 本書で扱うナレッジワーク(知識労働)の場合は、それぞれの人が持つ知識を環境に適合させて成果を上げていくような仕事なので、常に変化する環境に追随して発揮できる知識も変化させていかなければなりません。「成長」と言い換えることもできます。

 成長を促すような仕事(=ナレッジワーク)にするため、何も考えずにマニュアル通りに作業するような仕事ばかりではなく、それよりも少し大きな仕事(=考えることを要求する仕事)にしておく必要がある、ということだと思います。

 しかし、第一の原則にあるように、大きすぎる不可能な仕事ではいけないので、適切なレベルを目指さなくてはなりません。

create:2015/10/17

強みによる人事 その人間にできることか To start with what a man can do

人事においては、仕事が要求するものではなく、その人にできることからスタートしなければならない。
ということは、人事のはるか前から、しかも人事とは関係なく、一人ひとりの人について考えておかなければならないということである。
これが今日、知識労働者の定期的な評価のための人事考課制度が普及している理由である。
その目的は、重要な地位につける決定をしなければならなくなる前に人事の評価をしておくことである。

Effective executive know that they have to start with what a man can do rather than with what a job requires.
This, however, means that they do their thinking about people long before the decision on filling a job has to be made, and independently of it.
This is the reason for the wide adoption of appraisal procedures today, in which people, especially those in knowledge work, are regularly judged.
The purpose is to arrive at an appraisal of a man before one has to decide whether he is the right person to fill a bigger position.

  • fill a job : 仕事に充てる
  • independently : …とは独立して、無関係に、独自に
  • wide adoption : 広く採用されている
  • appraisal : 評価、査定、価値判断
  • procedure : 手順、やり方、手続き、処置
  • regularly : 定期的に、いつも休まずに、規則正しく

日本には終身雇用制度がある。
そのような制度は日本企業の業績を上げる能力といかなる関係があるのか。
答えは、そのような日本の制度が人の弱みを重視しないようにしていることにある。
日本では、人を自由に動かせないために、常に手元の人の中から(その)仕事のできるものを探さなければならない。
したがって常に強みを探す。
私は日本の方法を推奨しているわけではない。理想からは遠い。
能力を実証できた(極めて少数の)者だけが、重要なことのすべてを任されている。

There is “lifetime employment” in Japan.
How can such a system be squared with the tremendous capacity for results and achievement Japan has shown?
The answer is that their system forces the Japanese to play down weakness.
Precisely because they cannot move people, Japanese executives always look for the man in the group who can do the job.
They always look for strength.
I do not recommend the Japanese system. It is far from ideal.
A very small number of people who have proven their capacity to perform do, in effect, everything of any importance whatever.

  • square with : …と両立する
  • tremendous : ものすごい、とてつもない、凄まじい
  • precisely : 正確に、きちんと、まさに、ちょうど
  • recommend : 勧める、推奨する

成果をあげるエグゼクティブは、彼ら独自の考課方法を工夫している。
まず貢献の目標と実際の成果を記録する。
その後、次の四点について評価する。
(1) よくやった仕事は何か
(2) よくできそうな仕事は何か
(3) 強みを発揮するには何を知り何を身につけなければならないか
(4) 彼の下で自分の子供を働かせたいと思うか
①そうであるならなぜか
②そうでないならなぜか

Effective executives usually work out their own radically different form.
It starts out with a statement of the major contributions expected from a man in his past and present position and record of his performance against these goals.
Then it asks four questions:
(a) “What has he [or she] done well?"
(b) “What, therefore, is he likely to be able to do well?"
(c) “What does he have to learn or to acquire to be able to get the full benefit from his strength?"
(d) “if I had a son or daughter, would I be willing to have him or her work under this person?"
(i) “if yes, why?"
(ii) “if no, why?"

  • radically : 根本的に、徹底的に
  • statement of the major contributions expected : 期待されていた重要な貢献についての報告書
  • in his past and present position : 彼の過去と現在のポジションにおいて
  • acquire : を身につける、を得る、獲得する
  • to get full benefit from his strength : 彼の強みから最大の便益を得るために
  • be willing to do : …する意思がある

人間性と真摯さは、それ自体では何事もなしえない。
しかしそれらがなければ、他のあらゆるものを破壊する。
したがって、人間性と真摯さに関わる欠陥は、単に仕事上の能力や強みに対する制約であるにとどまらず、それ自体が人を失格にするという唯一の弱みである。

By themselves, character and integrity do not accomplish anything.
But their absence faults everything else.
Here, therefore, is the one area where weakness is a disqualification by itself rather than a limitation on performance capacity and strength.

  • by oneself : 独力で、ひとりで
  • accomplish : 成し遂げる、達成する、完遂する
  • absence : 不在、欠如、欠席
  • disqualification : 失格、資格喪失
  • limitation : 制限、制約、限界、期限

 人の強みを生かす人事を行うための三つ目の原則として、人事評価について述べています。

 人事考課制度は、組織それぞれに考えられて作られていますが、どのような制度であれ、弱みに注目した評価をしていたのでは、その評価をもとに人の配置を考えることはできないということです。

 日本の終身雇用制度について、理想からは遠いが強みに基づいた人事考課を採用している点を評価しているようです。これをもって全ての日本企業や国内の組織の評価制度が肯定されていると考えるべきではないでしょう。

 自らの組織では、強みを評価しているか、弱みに注目していないか、を改めて見直す機会を設けると良いと思います。

 弱みについて注目すべき例外を最後に記述しています。「真摯さの欠如は人として失格」という強烈な表現です。

「その人のもとで自分の子供を働かせたいか」というのは、真摯さを評価できる質問の例として挙げられているのだと思います。

create:2015/10/17

強みによる人事 弱みを我慢できるか One has to put up with weakness.

強みを手にするには弱みは我慢しなければならない。
業績を上げるには優れた能力が必要である。
人ではなく、仕事を問題にしなければならない。(「良い人」を語るのではなく、何か一つの仕事において「良い能力を持つ人」について語るのでなければならない。)
その仕事について強みを持つ者を探し、卓越性を求めた人事を行わなければならない。

The effective executive know that to get strength one has to put up with weakness.
They accept that abilities must be specific to produce performance.
They never talk of “good man” but always about a man who is “good” for some one task.
But in this one task, they search for strength and staff for excellence.

  • put up with : 我慢する、耐える、受け入れる
  • abilities must be specific : 能力は特定されていなければならない
  • a man who is “good” for some one task : 何か一つの仕事で「良い能力を持つ人」

「手放せない。いなくては困る」という声に耳を貸してはならない。
ある人が「欠くことができない」という理由は三つしかありえない。
第一に、その者が実際には無能でありかばってやる必要がある場合である。
第二に、弱い上司を支えるために、その者の強みを使っている場合である。
第三に、重要な問題を隠すため、あるいは取り組みを遅らせるために、その者の強みを使っている場合である。

They are above all intolerant of the argument: “I can’t spare this man; I’d be in trouble without him."
They have learned that there are only three explanations for an “indispensable man”:
He is actually incompetent and can only survive if carefully shielded from demands;
his strength is misused to bolster a weak superior from demands;
or his strength is misused to delay tackling a serious problem if not to conceal its existence.

  • above all : 何よりも、とりわけ、中でも
  • intolerant of the argument : ~という主張を受け入れない
  • explanation : 説明、釈明、弁解、理由
  • indispensable : 不可欠な、絶対必要な
  • incompetent : 無能な、無力な、不適格な
  • survive : 生き残る、生き延びる
  • shield from : ~から保護する
  • misuse : 誤用する、悪用する
  • bolster : 支える、勇気づける、励ます、強化する
  • tackle a serious problem : 重大な問題に取り組む
  • conceal : 隠す、覆い隠す、秘密にする

仕事には最適の者を充てなければならないだけではない。
実績をもつ者には、機会を与えなければならない。
問題ではなく、機会を中心に人事を行うことこそ、成果を上げる組織を創造する道であり、献身と情熱を創造する道である。

Not only does the job deserve the best man.
The man of proven performance has earned the opportunity.
Staffing the opportunities instead of the problems not only creates the most effective organization, it also creates enthusiasm and dedication.

  • deserve : ふさわしい、~に値する
  • earn : 稼ぐ、もうける、~を生む、もたらす
  • enthusiasm : 情熱、やる気、熱狂
  • dedication : 献身、専心

逆に、際立った成果を上げられない者は、容赦なく異動させなければならない。
さもなければほかの者を腐らせる。
組織全体に対して不公正である。
そのような上司の無能によって成果と認知の機会を奪われている部下に対して不公正である。

Conversely, it is the duty of the executive to remove ruthlessly anyone - and especially any manager - who consistently fails to perform with high distinction.
To let such a man stay on corrupts the others.
It is grossly unfair to the whole organization.
It is grossly unfair to his subordinates who are deprived by their superior’s inadequacy of opportunities for achievements and recognition.

  • the duty of the executive : エグゼクティブの義務
  • ruthlessly : 容赦なく、断固として、無情に
  • consistently : 絶えず、いつも変わりなく、首尾一貫して、矛盾なく
  • distinction : 名声、卓越
  • corrupt : 堕落させる、腐敗させる
  • grossly : ひどく、あまりにも、下品に
  • deprive : 奪う、剥奪する
  • inadequacy : 不適当、不適切、力不足
  • recognition : 識別、認識、賞賛、感謝

上司は部下の仕事に責任をもつ。部下のキャリアを左右する。
したがって、強みを生かすことは成果を上げるための必要条件であるだけでなく、倫理的な至上命題、権力と地位に伴う責任である。
組織は、一人ひとりの人に対し、彼らがその制約や弱みに関わりなく、その強みを通して物事を成し遂げられるよう奉仕しなければならない。

A superior has responsibility for the work of others. He also has power over the careers of others.
Making strengths productive is therefore much more than an essential of effectiveness. It is a moral imperative, a responsibility of authority and position.
Organization must serve the individual to achieve through his strength and regardless of his limitations and weakness.

  • essential : 必須の、必要不可欠な、根本的な、絶対必要な
  • moral imperative : 道徳的義務
  • authority : 権威、権力、威厳、当局
  • regardless of : ~に関係なく、~にもかかわらず

 人の強みを生かす人事を行うための最後の原則は、弱みに目をつぶり人事異動させることです。

 組織の人数が少ないと人事異動がほとんどできないこともありますので、すべての組織に当てはまる話ではありませんが、仕事のできる人のところに仕事が集まってしまうというのは、よくあることではないでしょうか。

 そのような状態を長く続けてしまうと、周囲がその人に依存してしまうようになり、仕事のできる人なのに新たな挑戦をさせられなくなっていきます。

 そうなる前に「実績のあるものには、機会を与えよ」としているわけです。一時的にその部署のパフォーマンスが下がっても、これをカバーする人がすぐ現れるものです。

 最後の「上司は部下に対して奉仕しなければならない」という記述は、よく覚えておく必要があると思います。

 公式には部下を管理し指揮命令し業績を上げる責任は上司が負うのですが、部下が最高のパフォーマンスを発揮するためには、部下に奉仕するという姿勢が大事だということです。

create:2015/10/17

上司の強みを生かす How do I manage my boss?

上司の強みを生かすことは部下自身が成果を上げる鍵である。
上司に認められ、活用されることによって、初めて自らの貢献に焦点を合わせることが可能となる。
自らが信じることの実現が可能となる。

Making the strength of the boss productive is a key to the subordinate’s own effectiveness.
It enable him to focus his own contribution in such way that it finds receptivity upstairs and will be put to use.
It enable him to achieve and accomplish the things he himself believes in.

  • receptivity : 受容力、感受性
  • upstairs : 2階へ、より高い地位へ、
  • be put to use : 使われるようになる
  • achieve : 獲得する、やり遂げる
  • accomplish : 成し遂げる、達成する

「上司は何が良くできるか」
「何をよくやったか」
「強みを生かすためには何を知らなければならないか」
「成果を上げるためには、部下の私から何を得なければならないか」
を考える必要がある。
上司が得意でないことをあまり心配してはならない。

The effective executive asks :
“What can my boss do really well?"
“What has he done really well?"
“What does he need to know to use his strength?"
“What does he need to get from me to perform?"
He does not worry too much over what the boss cannot do.


人には、「読む人」と「聞く人」がいる。
読む人に対しては、口で話しても時間の無駄である。
彼らは、読んだ後でなければ聞くことができない。
逆に、聞く人に分厚い報告書を渡しても紙の無駄である。
耳で聞かなければ、何のことか理解できない。

It is, I submit, fairly obvious to anyone who has ever looked that people are either “readers” or “listeners”.
It is generally a waste of time to talk to a reader.
He only listens after he has read.
It is equally a waste of time to submit a voluminous report to a listener.
He can only grasp what it is all about through the spoken word.

  • submit : 提出する、従わせる、甘んじて受ける
  • fairly obvious : すっかり明らか
  • generally : たいてい、通例、一般的に、概して
  • voluminous : 量の多い、巻数が多い、かさばった
  • grasp : 握る、つかむ、把握する、理解する

上司の強みを生かすには、問題の提示にしても、「何を」ではなく、「いかに」について留意しなければならない。
何が重要であり、何が正しいかだけでなく、いかなる順序で提示するかが大切である。

The adaptation needed to think through the strengths of the boss and to try to make them productive always affects the “how” rather than the “what."
It concerns the order in which different areas, all of them relevant, are presented, rather than what is important or right.

  • adaptation : 適応、順応、適応能力
  • affect : 影響する、変化をもたらす
  • concern : に関係する、影響を与える、気にかける
  • relevant : 関連がある; 適切な, 妥当な; 実質的価値がある
  • present : 生じさせる、引き起こす、提示する、発表する

上司の強みを中心に置くことほど、部下自身が成果を上げやすくなることはない。

Few things make an executive as effective as building on the strength of his superior.


 部下としては自分が組織の成果に貢献できるようにいろいろ工夫して仕事をやっている訳ですが、上司が交代するとさらにいろいろ変えなくてはならないことが出てきます。

 上司も人ですから、強みと弱みを持っています。部下が成果をあげるには、上司の強みに合わせて仕事を変えることが必要だと言っている訳です。

 逆に言うと、上司の強みを認識せず、その人の理解できない方法で「これまではこうしてうまくやってきた」ということを何度説明しても、受け入れてもらえないということが起きるということです。

 特に上司が交代した時には、「ほう・れん・そう」を頻繁に行い、意識して上司が「読む人」なのか「聞く人」なのかをつかみ、それに合わせたコミュニケーションスタイルに変えていくことが重要です。

 さらに、「伝える順番」「結果だけでなく経過(プロセス)」にも気を遣えとアドバイスしています。

2013/5/21
renew:2015/10/27

自らの成果をあげる Making yourself effective

自らの仕事においても、まず強みからスタートしなければならない。
すなわち自らのできることの生産性を上げなければならない。

Effective executives lead from strength in their own work.
They make productive what they can do.

  • lead from : ~から通じる

「何もさせてくれない」という言葉は、惰性のままに動くための言い訳ではないかと疑わなければならない。
もちろん、誰もが何らかの厳しい制約の中にいる。しかし、たとえ実際に何らかの制約があったとしても、することのできる(重要で)適切かつ意味のあることはあるはずである。

The assertion that “somebody else will not let me do anything” should always be suspected as a cover-up for inertia.
But even where the situation does set limitations - and everyone lives and works within rather stringent limitations - there are usually important, meaningful, pertinent things that can be done.

  • assertion : «…という» (しばしば根拠のない)主張, 明言(claim)
  • suspect : ~ではないかと思う、疑う、疑惑を向ける
  • cover-up for : かばう、覆い隠す
  • inertia : 怠惰、ものぐさ、惰性、慣性
  • even where : ~の場合でも
  • stringent : 厳しい、厳格な、切迫した
  • pertinent : «…に» (密接な)関係がある(relevant); 適切な, ぴったり当てはまる

強みを生かすことは、仕事の仕方についても重要である。 (強みを生産的にすることは、その人の能力や仕事の習慣と同じくらい重要である。)
どのような方法ならば自らが最も成果を上げられるかを知ることはさほど難しいことではない。

Making strength productive is equally important in respect to one’s own abilities and work habits.
It is not very difficult to know how we achieve results.

  • in respect to : ~に関して
  • ability : 能力、才能、技量

詳細な筋書きがあるとき、つまり十分考えておいたとき仕事のできる人がいる。
<訳文なし>
プレッシャーがあると仕事のできる人がいる。
ようやく時間が間に合うくらいの方が仕事のできる人がいる。
ある人は読む人であり、ある人は聞く人である。
右利きか左利きかのように誰でも知っているはずである。

Some people work best if they have a detailed outline in front of them; that is, if they have thought through the job before they start it.
Others work best with nothing more than a few rough note.
Some work best under pressure.
Others work better if they have a good deal of time and can finish the job long before the deadline.
Some are “readers,” others “listeners."
All this one knows, about oneself - just as one knows whether one is right-handed or left-handed.

  • good deal of : たくさんの、豊富な
  • Others work best with nothing more than a few rough note. : 少しのラフなメモだけの方が仕事ができる人がいる。
  • Others work better if they have a good deal of time and can finish the job long before the deadline. : 十分な時間があれば、期限よりはるか前に仕事を仕上げてしまうことのできる人がいる

何よりも成果を上げるエグゼクティブは、自分自身であろうとする。他の誰かであろうとはしない。
自らの仕事ぶりと成果を見て、自らのパターンを知ろうとする。
「他の人には難しいが、自分には簡単にやれることは何か」を考える。

All in all, the effective executive tries to be himself; he does not pretend to be someone else.
He looks at his own performance and at his own results and tries to discern a pattern.
“What are the things,” he asks, “that I seem to be able to do with relative ease, while they come rather hard to other people?"

  • all in all : 全体的に見て、概して、全部で、全面的に、何よりも大切なもの
  • pretend : ~を装う、~であるふりをする、見せかける
  • discern : 気づく、理解する、見分ける、見つける

強みを生かすことは、行動であるだけでなく姿勢でもある。
しかしその姿勢は行動によって変えることができる。
同僚、部下、上司について、「できないことは何か」ではなく「できることは何か」を考えるようにするならば、強みを探し、それを使うという姿勢を身につけることができる。
やがて自らについても同じ姿勢を身につけることができる。

Making strength productive is as much an attitude as it is a practice.
But it can be improved with practice.
If one disciplines oneself to ask about one’s associates - subordinates as well as superiors - “What can this man do?” rather than “What can he not do?” one soon will acquire the attitude of looking for strength and of using strength.
And eventually one will learn to ask this question of oneself.

  • attitude : 態度、姿勢、考え方、意見、判断
  • improve : 改善する、改良する、上達させる、進歩する
  • discipline : 訓練する、しつける、習慣づける、律する
  • acquire : 獲得する、身につける
  • eventually : 結局、ついに、最後には、ゆくゆくは

強みのみが成果を生む。
弱みはたかだか頭痛を生むくらいのものである。しかも弱みをなくしたからといって何も生まれはしない。
弱みをなくすことにエネルギーを注ぐのではなく、強みを生かすことにエネルギーを費やさなければならない。

The effective executive knows that only strength produces results.
Weakness only produces headaches - and the absence of weakness produces nothing.
?????????(訳文にあるのに原文にはない)

  • absence : 不在、欠席、欠如、ないこと

  どのような職場でも、守らなくてはならない様々なルールがあります。そのルールがゆえに新しいものに踏み出せないという面があるかもしれません。

 ただ、ドラッカーはその点も見抜いていて、「何もさせてくれないという言葉は、惰性のままに動くための言い訳ではないかと疑わなければならない」と、ちょっとした衝突や意見調整、ルール変更を面倒がって、できることを避けているのではないか、と耳の痛い指摘を入れてきます。

 成果をあげるエグゼクティブは、簡単にして良いことでする値打ちのあることを探すと言っていますが、その際に意識すべきものが自らの強みです。

 普段からよく自分と周囲を観察し「他の人には難しいが自分には簡単にやれることは何か」を考えていると、自らの強みを知るヒントが得られるでしょう。

2013/5/22
renew:2015/12/2