2章 既存の企業がイノベーションに成功する条件

「大企業はイノベーションを生まない」は本当か(213)

よく問題にされる大組織の官僚的体質や保守的体質は、イノベーションと起業家精神を妨げる深刻な障害となる。だが、それは中小の組織でも同じである。

イノベーションと起業家精神にとって最大の障害は、規模の大きさではなく、既存の事業、特に成功している事業である。

既存の事業に危機は頻繁に起こり、先に延ばすことはできない。既存の事業は常に優先して当然である。

これに対し新しい事業は、既存の事業の規模や成果に及ばず、つねに小さく、とるに足りず、将来性さえわからない。

かなりの数の中小企業、大企業が起業家としてイノベーションに成功しているという事実は、イノベーションと起業家精神がいかなる企業においても実現できることを示している。

ただしそのためには意識的な努力と学ぶことが必要である。起業家的な企業は、起業家精神の発揮を自らの責務とし、それを鍛える。そのために働き、それを実践する。

起業家精神が生まれる構造(215)

起業家的な事業、新しい事業は、まず既存の事業から分離して組織しなければならない。

既存の事業に責任を持つ人たちは、新しい起業家的な事業、イノベーションに関わる活動を、手遅れになるほど先延ばししてしまう。

新しい事業の核となる人は、かなり高い地位にあることが必要である。専任である必要はないが、トップマネジメントの一人が、明日のためにその特別な仕事に全面的な責任を負わなければならなない。

新しい事業をおろそかにしない方法(216)

新しい事業はいわば赤ん坊であって、赤ん坊のままでいる期間はかなり長い。置くべきところは育児室である。

そのような方法をとっていることで有名なメーカーは、P&G、ジョンソンエンドジョンソン、3Mである。

いずれの会社も、新しい事業をはじめから独立した事業としてスタートさせ、専任のプロジェクトマネジャーをおく。このプロマネは、調査、生産、財務、マーケティングなどの専門家を、必要な時必要な人数だけ動員できるようになっている。

既存の事業については、会計、人事、報告のシステムが確立している。しかし新しい事業については、それらと違うシステム、ルール、評価基準が必要となる。

新市場に参入したばかりの新製品に、既存の事業に貸しているのと同じ負担を求めることは、6歳の子供に30㎏のリュックを背負わせるようなものである。遠くまで行けるはずがない。

起業家マネジメントにおけるタブー(219)

起業家マネジメントを行うためにはしてはならないことがいくつかある。

第1に、起業家的な部門を既存の事業部門の下に置くことである。

第2に、合弁事業である。大企業と起業家たちの合弁事業に成功した例はあまりない。

第3に、得意な分野以外でイノベーションを行うことである。イノベーションは多角化であってはならない。

第4に、ベンチャービジネスを買収、取得することによって起業家的になろうとしてはならない。買収された側のマネジメントが長くとどまってくれることはほとんどない。

起業家として成功してするのは多くの場合、会社全体がイノベーションを望み、イノベーションに手を伸ばし、イノベーションを必然の機会と見ていることを前提として、自らの人材によって新しい事業を手がけたときである。

互いに理解しあえる人たち、信頼しあえる人たち、ものごとの進め方を知っている人たち、一緒に仕事をしていける人たちを使ったときにイノベーションが成功する。

Posted by hayasaka