4章 人事の原則
一流の人事はどこが違うのか(175)
マネジメントは人事に時間をとられる。そうでなければならない。ところが、昇進、異動のいずれにせよ、実態は全くお粗末である。平均打率は1/3以下である。
人事に完全無欠はありえないが、限りなく10割に近づけることはできる。
真珠湾攻撃のころ、アメリカの将軍団はいずれも高齢だった。若手の高級将校には実践経験がなかった。戦争が終わるころには、史上最高の将軍団を擁していた。参謀総長ジョージ・マーシャルによる人事の結果だった。
アルフレッド・スローンは、GMを経営していた40年間、マネジメントの人事をすべて自ら行った。スローンの視野や価値観が狭かったという批判がある。その通りである。内部の効率に目を奪われ、外部のことに関心を払わなかった。しかし、人事はつねに一流だった。
共通する4つの原則(176)
マーシャルとスローンは同じ考えのもとに人事を行っていた。
第1に、ある仕事につけた者が成果をあげられなければ、人事を行った自分の間違いである。
第2に、責任感のあるものが成果をあげられるようにすることは、マネジメントの責任である。兵士には有能な指揮官を持つ権利がある。
第3に、あらゆる意思決定のうち、人事ほど重要なものはない。組織そのものの能力を左右する。
第4に、外部からスカウトしてきた者に、初めから新しい大きな仕事を与えてはならない。そのような仕事は、仕事のやり方や癖が明らかで、かつ組織内で人望のあるものに任せるべきである。
踏むべき手順(177)
人事の手順もさほど多くはない。
第1に、仕事の中身をつめなければならない。職務規定そのものは変えなくてよい。しかし、仕事の中身はつねに、しかも思いもかけず変わっていくことを知っておかなければならない。
第2に、候補者は複数、常に3人から5人の候補者について検討しなければならない。
第3に、強みを中心に検討しなければならない。仕事の中身をつめていけば、任命された者が優先すべきこと、集中すべきことが明らかになる。重要なことは、その者の強みが仕事の中身に合致しているかである。
第4に、候補者を知っている何人かの考えを聞かなければならない。
第5に、新しいポストにつけた者には、仕事の中身を理解させなければならない。新しいポストに就任して3,4か月たったならば、その新しい仕事が要求するものに焦点を合わせさせなければならない。人間だれしも「すごく良いことをしたに違いない。さもなければ、この新しいポストにつけなかった。だからこの昇進をもたらしてくれたことをもっとやろう」と考える。新しい仕事が新しい仕事の方法を必要とすることは、ほとんどの人にとって自明の理ではない。
昇進人事における失敗の最大の原因は、人事を行ったものが、新しい仕事が要求するものについて徹底的に考えることを怠り、しかもそのポストに就いた者にもそれを考えさせないことにある。
失敗したらどうするか(181)
ある人間が、新しい環境に向いているかどうかを事前に知る方法はない。後知恵でしかわからない。したがって、昇進や異動がうまくいかなかったときには、「私が間違った。直すのは私の責任である」と考え、ただちに再異動させる必要がある。
間違った人事をされてしまった者をそのままにしておくことは、温情ではない。意地悪である。最も妥当な解決策は、以前のポスト、あるいはそれに相当するポストに戻すことである。この方法は、ほとんどがうまくいく。
組織が急速に成長したり、変化したときには、優秀なものさえ失敗させてしまう「後家づくり」のポストが現れる。
前のポストで立派な業績を上げていた二人の人間が立て続けに失敗したときには、「後家づくり」のポストと見なければならない。その時は、ポストそのものをなくすべきである。
人事には姿勢が現れる(182)
人事は、マネジメントがどの程度有能であるかも、その価値観がいかなるものであるかも、仕事にどれだけ真剣に取り組んでいるかも明らかにする。
「ジョー・スミスが、XYZ事業部の経理部長になった」ことを知らされたときには、「ジョーには資格がある。最高の人事だ。急成長しているあの事業部を管理するうえで最適だ」という反応が返ってこなければならない。
組織の人間は、他の者がどのように報われるのかを見て、自らの態度と行動を決める。仕事よりも追従のうまいものが昇進していくのであれば、組織は業績のあがらない追従の世界となっていく。
公正な人事のために全力を尽くさないトップマネジメントは、組織の業績を損なうリスクを冒すだけなく、組織そのものへの敬意を損なう危険を冒している。