3章 目標と自己管理によるマネジメント

何に焦点を合わせるか(159)

組織に働く者は、共通の目標のために貢献する。その貢献は、隙間なく、摩擦なく、重複なく、一つの全体を生み出すよう統合される。一つ一つの仕事は、全体の成功に焦点を合わせなければならない。

組織に働く者は、事業の目標が自らの仕事に対し求めているものを知り、理解しなければならない。上司もまた、彼らに期待すべき貢献を知り、それに基づいて評価しなければならない。

これらのことが行われないならば、チームワークの代わりに摩擦、不満、対立が生まれる。

組織に働く知識労働者の数は、今後大きく増加し、しかも彼らに要求される能力水準も高まらざるをえない。

いかなる組織も、その成員に最高の腕を発揮することを要求しない限り、堕落する。したがって、機能や職能それ自体を目的にする傾向はさらに顕著となる。

新しい技術は、一人一人の人間が卓越性を追求するとともに、共通の目標に向けて方向づけされることを必要不可欠とする。

しかし組織において働く者は、共通の目標に向けて自動的に方向づけされるわけではない。そのため、目標によるマネジメントには、特別の手法と非常な努力が必要である。

方向づけを間違えるおそれ(160)

上司が言ったり行ったりすること、何気ない言葉、習慣、癖まで、部下にとっては計算され意図された意味のあるものと映る。

「建前では人間関係が重要だと言っているが、その実、部屋に呼びつけて言われるのは間接費の削減だ。ポストを手に入れるのは、経理への報告をうまく書ける者だ」という類の文句が、あらゆる階層で聞かれる。

そのような状況では、仕事の成果が上がるはずはない。組織とマネジメントに対する信頼は失われ、敬意も失われる。

この種の問題の解決には、組織に働く者の意識を、それぞれの上司にではなく、仕事が要求するものに向けさせることが必要である。行動パターンや姿勢を強調しても、解決は得られない。

何を目標とすべきか(162)

社長から工場の現場管理者や事務主任にいたる全員が、明確な目標を持つ必要がある。

それらの目標は、自らが期待されている貢献、自らが生み出すべき成果を明らかにしなければならない。そして、自らの目標を達成するうえで他からいかなる貢献を期待できるかを明らかにしなければならない。

もちろんそのような目標は企業全体の目標から導かれなければならない。

目標は、事業の繁栄と存続にかかわりのあるあらゆる領域において、果たすべき貢献を明らかにしなければならない。

ある者やある部門が、ある領域についていかなる貢献も期待されていないならば、その旨は明確にしておかなければならない。それは、事業の成果が、多様な領域における多様な努力とバランスにかかっていることを彼らが理解しておく必要があるからである。

このことを理解させておくことは、機能別部門が自らの王国を築き島国根性に陥ることを避けつつ、それぞれの能力を最大限に発揮させるうえで絶対に必要である。

一人一人の目標は、長期と短期の観点から明らかにし、定量化できる目標とともに、人材開発、仕事ぶりや姿勢、社会的責任など定量化できない目標を含むことが必要である。

キャンペーンによるマネジメントは失敗する(163)

危機感をあおるマネジメントや、キャンペーンによるマネジメントを行ってはならない。そのようなマネジメントは効果がないだけでなく、人を間違った方向に導く。他のあらゆることを犠牲にして、仕事の一部だけを強調する。

4週間かけて在庫を減らし、次に4週間かけてコストを引き下げる。次の4週間は人間関係に力を入れる。そのあとは顧客サービスである。そのころには在庫は元に戻っている。

キャンペーンによるマネジメントは混乱の兆候であり、無能の証拠である。いかに計画するかをトップマネジメントが知らないことを示す。

一人ひとりの目標を明らかにする(164)

マネジメントとは、自らの率いる部門がその上位部門に対して行うべき貢献、つまるところ、企業全体に対して行うべき貢献について責任をもつ者である。すなわち目標は、その属する上位部門の成果に対して行うべき貢献によって規定される。

目標は、組織の客観的なニーズによって設定しなければならない。それゆえに、あらゆるものが自らの属する上位部門全体の目標の設定について、責任をもって参画しなければならない。

「事業全体の究極の目標がなんであるか」を知り、そして「自らに何が求められ、それがなぜであるか」「自らの成果は、何によって、いかに評価されるか」を理解しなければならない。

上位の部門の目標設定に参画して初めて、彼らの上司も「彼らに何を期待し、どんな要求を課すことができるか」を知ることができる。

自己管理によるマネジメントに必要なもの(167)

目標によるマネジメント最大の利点は、自らの仕事ぶりを自らマネジメントすることが可能になることにある。最善を尽くすという強い動機がもたらされる。より高い目標とより広い視野がもたらされる。

自己管理によるマネジメントを実現するためには、自らの目標を知っているだけでは十分ではない。自らの仕事ぶりとその成果を、目標に照らして評価測定することが必要である。したがって、明確な評価基準を与えることが必要である。

それらの評価基準は定量的でなくとも、緻密でなくともよい。しかし、明確、単純、合理的であることが不可欠である。注意と努力を、向けるべきところに向けるものであることが必要である。

所期の成果を達成するために必要な措置をとれるよう、情報は早く得ることが必要である。その情報は彼らの上司にではなく、彼ら自身に直接伝わることが重要である。情報は自己管理の道具であって、上からの管理の道具であってはならない。

人は自らの仕事についてあらゆる情報を持つとき、はじめてその成果について全責任を負うことができる。

報告と手続きに支配されるな(170)

報告と手続きは、誤った使い方をされるとき、道具ではなく支配者となる。報告と手続きの誤った使い方は三つある。

第1に、手続きを規範とみなすことである。手続きは完全に効率上の手段である。迅速に行うための方法を規定する。行動の正しさは、手続きとは関係ない。

第2に、手続きを判断の代わりにすることである。手続きが有効に働くのは、判断が不要になっているときである。

第3に、報告と手続きを上からの管理の道具として使うことである。自らの仕事に必要のない情報を、本社の経理部、技術部その他のスタッフに知らせるために、20種類もの書式に記入しなければならない工場長の例はいくらでも目にする。

報告と手続きの数は最小限にとどめ、時間と労力を節約するためにのみ使うべきである。

あらゆる企業が、現在使っている報告と手続きのすべてについて、本当に必要かどうかを定期的に検討する必要がある。少なくとも5年に1度は、すべての書式について見直しを行わなければならない。

個人の目標と全体と利益を調和させる原理(174)

今日必要とされているものは、一人ひとりの強みと責任を最大限に発揮し、彼らの視野と努力に共通の方向性を与え、チームワークを発揮させるためのマネジメントの原理、すなわち、一人ひとりの目標と組織全体の成果を調和させるためのマネジメントの原理である。

これらのことを可能とする唯一のものが、目標と自己管理によるマネジメントである。

この原理が、外からのマネジメントに代えて、より厳しく、より強く、より多くを要求する内からのマネジメントを可能にする。この原理だけが、誰かの意思による指示や命令ではなく、自ら行動しなければならないという自己決定によって行動させるようになる。

目標と自己管理によるマネジメントこそ、まさにマネジメントの哲学と呼ぶべきものである。それは、成果の達成を確実なものにするために、客観的なニーズを一人ひとりの目標に代える。そして、真の自由を実現する。

Posted by hayasaka