4章 NPOは企業に何を教えるか

最も進んだマネジメント(63)

アメリカでは、ガールスカウト、赤十字、教会などの非営利組織(NPO)が、マネジメントの面でリードしている。

今日アメリカで最も多くの人たちが働いている組織がNPOである。 8000万人強が、平均週5時間、ボランティアとして働いている。

膨大な数の人たちが、まさに無給のスタッフとして、それぞれのNPOにおいて、マネジメントの仕事や専門的な仕事を引き受けている。

もちろん、NPOが全てうまくいっているわけではないが、アメリカのNPOは、生産性、活動範囲、社会貢献において急成長してきた。

組織の使命からスタートする(64)

以前のNPOの関係者にとって、マネジメントは金儲けを意味する汚い言葉だった。

しかし今日、NPOのほとんどが、まさに自分たちには利益と言う基準がないからこそ、企業以上にマネジメントが必要なことを認識している。

一流のNPOは、使命すなわち目的の定義に力を注ぐ。よき意図に関わる美辞麗句を避け、ボランティアや有給スタッフの仕事が具体的にわかるよう目標を定め、そこに焦点を合わせる。

企業がNPOから学ぶべきことの第一が、使命を持つことである。 それによってのみ、組織、特に大組織が陥る進行性の病、すなわち限られた資源を生産的な活動に集中せず、面白そうなことや儲かりそうなことに分散させる過ちを防ぐことができる。

成果に焦点を合わせる(65)

一流のNPOは、経営環境、コミュニティ、潜在顧客からスタートする。多くの企業に見られるように、内部の世界、すなわち組織や利益からスタートすることはない。

一流のNPOは、顧客を探すためだけでなく、自分たちがどの程度成功しているかを知るために外の世界に目を向ける。使命を明らかにすることによって、外の世界への認識も深まる。

アメリカ南西部の病院チェーンでは、メディケア(高齢者向け医療保障)からの収入の減少と入院期間の短縮化傾向にもかかわらず、治療と看護の水準の向上によって、収入を15%伸ばしている。

彼らのモットーは「患者の利益になることならば行うべきである。その収支を合わせることが自分たちの仕事である。」というものである。

取締役会の手本とするべき理事会(68)

企業がNPOから学ぶべき第二のものが、取締役会のあり方である。

NPOの組織と活動が大きくなり、常勤のCEOがマネジメントするようになっても、月に3時間だけの非常勤の理事会は企業の取締役会のように無力化されることはなかった。

CEOがどれほどそれを望もうと、理事会がCEOの言いなりになることはなかった。

その原因の一つは、NPOの理事の多くは自ら多額の寄付をしており、寄付してくれる者を連れてくること、もう一つの原因は、理事の多くが、NPOの使命に個人的に献身していることである。

NPOの理事会は、献身的かつ行動的であるがゆえに、CEOと対立しやすい関係にある。摩擦も大きい。

その結果、理事会とCEOのいずれも他方のボスとはなってはいけないこと、理事会とCEOの役割を明らかにすることはCEOの責任であることを学ぶに至っている。

理事会を有効なものとする鍵は、その役割について論じることではなく、その仕事を組織化することである。

無給だからこそ満足を求める(71)

今日多くのNPOでは、ボランティアは無給だからこそ、大きな貢献をなし、仕事に満足してもらわなければならないとしている。

ボランティアの中核が、善意のアマチュアから、スペシャリストとしての無給のスタッフに移行したことは、企業にとっても大きな意味を持つ。

中西部のあるカトリック司教区では、司祭や修道女は15年前の半分以下に減少したが、ホームレスや麻薬患者の救済活動などは倍の規模になっている。慈善事業をマネジメントし、付属学校の管理を行い、青少年向けのプログラム、黙想会を運営するために2000人もの無給のスタッフがパートで働いている。

ボランティアの役割の変化はボランティア自身から発している。今日のボランティアの多くが、マネジメントの仕事や専門的な仕事に従事する教育を受けた人たちである。

生計の資のための仕事において彼らは知識労働者である。ボランティアの仕事においても知識労働者たることを欲する。

NPOが彼らを引き付けとどまらせるには、彼らの能力や知識を活用し、意義ある成果をあげる機会を提供しなければならない。

無給スタッフが必要とするもの(72)

いつでも去ることのできる彼ら無給のスタッフが求めているもの、とどまらせるものは何か。

第一に、活動の源泉となるべき明確な使命である。

第二に必要としているものが訓練、訓練、そして訓練である。

古参のボランティアに再びやる気を起こさせ引き留めておく効果的な方法が、彼らの能力を新人教育に使わせることである。

ボランティアである知識労働者が第三に求めているものは責任である。

特に、自らが目標を検討し設定する責任を与えられることである。彼らは意思決定に際して意見を述べ、参画することを求める。より困難な仕事と責任を求める。

やりがいの問題 - 企業への警告(75)

ボランティアから無給の専門スタッフへという変化は、アメリカ社会におけるもっとも重要な変化である。

この変化は、企業にとっても明快な教訓となる。なぜならば、知識労働者の生産性を向上させることは、アメリカのマネジメントにとって今日最大の課題だからである。NPOがそれをどのように行うべきかを教えている。

それは、使命を明らかにし、人材を的確に配置し、継続して学習を施し、目標によるマネジメントを行い、要求水準を高くし、責任をそれに見合うものとし、自らの仕事ぶりと成果に責任を持たせることである。

ボランティアの仕事の性格が変化したことには、企業への明確な警告が込められている。企業に勤めながらボランティアとして働く人たちに聞くと例外なく、「企業の仕事はやりがいが十分でなく、成果や責任が十分でない。使命も見えない。あるのは利益の追求だけ」との答えが返ってくる。

Posted by hayasakahiroshi