5章 同族企業のマネジメント
生き残りを左右する原則(185)
マネジメントについての本や講座のほとんどが、経営のプロによってマネジメントされる上場企業だけを扱っている。 同族企業に触れることはほとんどない。
研究開発、マーケティング、経理などの仕事で、同族企業と他の企業との間に違いがあるわけではない。
しかし、同族企業はマネジメントの構成に関して、いくつかの原則を必要とする。それらの原則は厳しく守らなければならない。さもなければ生き残ることができず、繁栄など到底できない。
できの悪いものは働かせるな(186)
第一の原則として、一族外の者と比べて、同等の能力を持ち、少なくとも同等以上に働く者でない限り、同族企業で働かせてはならない。 できの悪い甥を働きに来させて給料を払う位ならば、働きに来ないように金をやったほうが安くつく。
一族の中の凡庸な者、さらには怠惰な者をに働くことを許すならば、一族に属さないものに不満が鬱積するのは当然である。そのような者の存在は、彼らに対する侮辱となる。 有能な者は辞めていき、残る者はへつらい、おべっかを使うようになる。
デュポンは、この問題に真正面から取り組んだおかげで生き残り、繁栄した。 一族の男性は全員、デュポンに就職する資格を与えられた。だが働き始めて5、6年後には、一族の年長者たちによってふるいにかけられた。10年後にトップマネジメントに入れるだけの器でなければ、やめさせられた。
トップマネジメントに一族以外からも採用せよ(187)
第二の原則も、同じく簡単である。 一族の者が何人いようと、また彼らがいかに有能であろうと、トップマネジメントのポストの1つには、必ず一族に属さない者を当てなければならない。
リーバイ・ストラウスでも、CEOは創業者の子孫だが、COO(最高業務責任者)兼社長は、一族以外のものである。
同族企業は、その一族に属しておらず、仕事と私事を混同することのない尊敬すべき人間を、トップマネジメントの中に最低1人は入れる必要がある。
専門的な地位には一族以外の者も必要(188)
第三の原則として、同族企業といえども、専門的な地位には一族以外の者を必要とする。
いかに一族が優秀であっても、生産、マーケティング、財務、研究開発、人事に必要な知識や経験はあまりに膨大である。
もちろん、そのような部門のトップに置いた専門家は、一族と同等に扱わなければならない。完全な市民権を与えなければならない。そうしない限りやめていく。
適切な仲裁人を外部に用意せよ(189)
後継者問題に関わる意思決定は、一族の者ではなく、しかも利害関係を持たない外部の者に委ねることである。 しかし、後継者問題が深刻化してから外部の人間を招いても手遅れである。
したがって第四の原則として、同族企業は継承の決定を迫られるはるか前、できれば一族の人間が後継者についてそれぞれ考えを持つようになる前に、適切な仲裁人を外部に見つけておかなければならない。
2代目や3代目にとっては、同族企業を維持していく事は極めて重要である。 同族による円滑な継承が社会の利益にもかなう。 したがって、社会にとって、同族企業を支援し、その継承を容易にすることは、起業家精神の観点からも重要である。